指定研究プロジェクト「異文化理解と多文化共生―仏教・キリスト教・イスラームの実践的対話に向けた比較宗教学―」研究講演会開催報告
2023.12.12
2023年11月24日（金）、25日（土）の両日、指定研究「異文化理解と多文化共生」（代表：佐野 東生・国際学部 教授）の連続研究講演会が龍谷大学深草学舎、および東京ジャーミィにおいて開催されました。講師として、トルコ国立セルチュク大学（コンヤ）のアリー・テミーゼル教授（Prof. Dr. Ali Temizel）を招へい（通訳・佐野）し、本指定研究共同研究員の村山 木乃美・日本学術振興会PD（東京大学）とともにお話いただきました。
龍谷大学講演会では、まず村山氏が「ルーミーの作品にみる仏教」と題し、13世紀のトルコの著名なイスラーム神秘家・詩人ルーミー（メヴラーナ）について、その代表作『精神的マスナヴィー』（以下「マスナヴィー」）などを引用しながら、仏教との関係を論じました（11：00～12：30 会場：和顔館B208）。講演ではイスラーム神秘主義（スーフィズム）の概説を基に、イスラームに流布したアフガニスタンの旧仏教都市バルフ出身の「イブラーヒーム・アドハム」伝説がマスナヴィーなどの逸話に見られ、ジャータカの仏陀出家説話とも類似性があるとの説が紹介されました。コメントでは佐野により、中世イスラーム史料にみるインド仏教の輪廻や地獄観などに触れられ、またルーミーの「無」の思想と大乗仏教の空の思想の類似性が指摘されました。質疑応答ではイスラームの他の同類の逸話に比べマスナヴィーなどにどんな特殊性と価値があるか、逸話の類似性だけで仏教との影響がいえるか、などが問われ、今後の課題となりました。
次いでテミーゼル氏が、「ルーミー思想とトルコの実践的国際交流・人道的外交」と題し、ルーミーの人類の共生に向けた神秘思想がトルコの人道的外交にどのように反映しているかを紹介しました（13：30～15：00 会場：和顔館B201）。特に宗教や人種・言語の相違による差別や対立をなくす思想を背景に、トルコが多くの国に送る人道援助物資の表に、ルーミーの詩の一節：「絶望のあとに希望に満ちる 暗闇を過ぎれば太陽に満ちる」が印刷されていることが指摘され、その思想が現代でも生き続けていることが強調されました。これを通じ、いわゆる「イスラームフォビア」の原因であるイスラームへの誤解を解くよう勧められ、聴講した学生らにもイスラームのイメージを変えるきっかけとなったと思われます。
東京ジャーミィ（トルコ政府設立の日本最大のモスク・教育施設）の講演会は同ジャーミィ主催、本指定研究共催の特別講演会として開催され、エルトウルル講堂でテミーゼル氏による「メヴラーナのクルアーンに基づく個性とメッセージ」と題する講演がなされました。預言者ヨセフの逸話などからマスナヴィーにみられるクルアーンの節が引用され、ルーミーがイスラーム教徒としてあくまでクルアーンに立脚した神秘思想と実践を展開していった模様が論じられました。聴講者から活発な質疑がなされ、ルーミー、神秘主義的イスラームへの関心の高さを伺わせました。本講演の機会と会場を提供・設営していただいた東京ジャーミィのイマーム・チナル師はじめ関係者の皆様には改めて感謝申し上げます。
同講演の翌11月26日には東京のトルコ大使館をテミーゼル氏と佐野が表敬訪問し、エスラ・ウズベク参事官らと今後の龍谷大学との研究協力を含め歓談する機会がありました。
総じて、今回の連続講演会はテミーゼル先生を始めとするトルコの方々、東京ジャーミィなど諸組織の協力を得て円滑に開催することができ、ルーミー思想の比較宗教学的意義を考察する上で有意義な機会であったといえます。
・テミーゼル氏 講演和訳（龍谷大学）
・テミーゼル氏 講演和訳（東京ジャーミィ）
・村山氏 ドラフト
・テミーゼル氏 龍谷大学講演会：
https://drive.google.com/file/d/1HCL3I9btwhxel4LQpfItptCIt_0wZZqU/view?usp=drive_link
・村山氏 龍谷大学講演会：
https://drive.google.com/file/d/1TDmhtvTcUVddpWkZ8EoiXWb3vJHHnUOc/view?usp=drive_link