指定研究プロジェクト「異文化理解と多文化共生―仏教・キリスト教・イスラームの実践的対話に向けた比較宗教学―」研究講演会開催報告
2023.03.23
2023年3月13日(月)12:00~16:00にかけて、大宮キャンパス清和館3Fホールで、指定研究『異文化理解と多文化共生―仏教・キリスト教・イスラームの実践的対話に向けた比較宗教学』(2022~2024年度)(代表:佐野)の研究講演会が開催されました。本研究講演会は二部に分かれ、仏教、特に念仏思想の実践的展開が考察され、キリスト教、イスラームなど他の世界宗教の祈りといかに比較しうるかが論じられました。なお、本研究講演会は司会の久松英二(ひさまつ えいじ)・国際学部教授をはじめ、いずれも本指定研究の兼任研究員、共同研究員によって講演・コメントがなされました。
第一部では釈徹宗(しゃく てっしゅう)・相愛大学学長(仏教思想)を招き、『念仏思想の比較宗教的考察』との演題で、初期仏教における六念における念仏の位置づけと、瞑想的念仏による三昧体験が論じられました。次いで、阿弥陀仏の名を唱える称名念仏の発展と念仏の大衆化に伴い踊る念仏、歌う念仏が広がり芸能の域に達し、法然・親鸞がそれを仏教の枠内に理論化した点が指摘されました。そして念仏とキリスト教の「イエスの祈り」、イスラームのズィクルとの相似点・相違点が論じられ、結論としてこれまで民俗学的対象に限定されていた大衆的念仏の多角的な再評価が必要ではないか、との提言がなされました。
これを受けて、鶴岡賀雄(つるおか よしお)・東京大学名誉教授(キリスト教神秘思想)により、キリスト教の立場から念仏思想との相違点に関するコメントと質疑がなされました。また村山木乃実(むらやま このみ)・日本学術振興会PD(イラン・イスラーム思想)によりイスラームの立場から念仏に比較しうるイスラームの義務的礼拝などについてコメントがありました。
第二部では、佐野東生(さの とうせい)国際学部教授(イスラーム研究)により、『トルコにおける多宗教の交流』との演題で、まず2023年2月に発生したトルコ・シリア震災の現地での救援活動に触れた後、トルコの多文化・多宗教的環境下でのイスラームとキリスト教の交流・対話の例が紹介されました。次いで、トルコのメヴレヴィー教団を中心に、イスラーム神秘主義の祈りの行法としてのズィクルと、仏教のうち特に親鸞の絶対他力の念仏との比較がなされました。その中で、入り口では逆である自力行のズィクルと他力行の念仏が、真如:真実在に近づくほど自我が消えすべてを委ねる点、また最終的にバカー(存続)・還相回向(げんそうえこう)として現世に戻る点で類似することが示されました。
これを受けて、松長昭(まつなが あきら)・事業創造大学院大学客員教授(トルコ民族史)から、現代トルコの政教分離下のイスラームなどの宗教事情に関するオンラインコメントがなされ、M.デュンダル・トルコ国立アンカラ大学教授(トルコ日本関係史)から、トルコにおける19世紀以来の仏教への関心と研究の歴史について解説するオンラインコメントがなされました。
総じて本研究講演会は、仏教をひとつの軸に他の世界宗教と比較する本指定研究の主旨を生かし、念仏思想を中心としてその多角的面の解説とキリスト教、イスラームの神秘主義の祈りとの相違点・相似点の比較が具体的になされた点で有意義な内容でした。さらに、念仏の芸能面まで含む再評価、およびメヴレヴィー教団のセマーと呼ばれる体を回転させるズィクルの紹介と合わせ、大衆的・民俗的宗教文化としての念仏やズィクルについても今後さらに宗教学の一環として研究されるべきことが提言された点で意義深いものでした。(各発表者の講演会資料は以下に添付します。)
本研究講演会の映像のリンクについて、視聴を希望する方は以下の国際社会文化研究所事務局までお問合せください(申し込み期限:2023年6月30日)。なお、個人の視聴目的にのみ利用を制限させていただきます。
問い合わせ先:国際社会文化研究所事務室<E-mail:shabunken@ad.ryukoku.ac.jp>