上方落語に見られる待遇表現の社会言語学的分析
A Sociolinguistic Analysis of the Interpersonal Expressions in the Kamigata Rakugo Stories
研究代表者
角岡 賢一(経営学部・教授)
研究種別
個人研究
概要
本研究は、世界の諸言語を声調言語・高低語強勢言語・強弱語強勢言語という三分類に類型化できることが可能であるかを言語類型論的観点から試みるものです。声調言語とは、機能語も含めて全ての語彙に固有の声調が割り当てられている言語であると定義することができます。中国語のように声調が何種類かあって個別語彙の各音節に特有の声調が付与されるものと、アフリカ大陸に分布する声調言語のように高低二種類の音素が音節によって当て嵌められるものとに大きく二分されるでしょう。他方で声調言語でない言語の語彙は、内容語には語強勢が与えられるものの、機能語には語強勢が付与されないものと考えられます。語強勢には、高低と強弱の二種類があります。世界の諸言語が、このような三類型に分類できるという一般化がどこまで可能であるかを探るのが本研究の目的です。
上述のような三分類は、語彙という次元が研究対象であります。これを次の段階に進めると、上述のような三分類が節音調(イントネーション)と関連するという仮説を立てることになります。即ち、声調言語においては抑揚が語彙に固有であるために、例えば文末を上昇調にすることによって発話が質問である、というような語用論的機能を持たせることが不可能です。例えば北京官話では、疑問を表す語気助詞「嗎」などを付加する以外は、節音調による質問の意図表示などは不可能です。声調言語でない語強勢言語では、このような制限がかからないことによって、節音調の語用論的機能が大きいと言えます。また語強勢言語においても、高低語強勢は語彙において抑揚を区別するために節音調の語用論的機能が発達しないという可能性が考えられます。そうとしても、日本語では「そうですか」という発話が下降調であれば相手の言い分に対する相槌と受け止められるであろうし、上昇調になるとその言い分に対して疑問を呈していることになるというような対比はあります。他方で、強弱語強勢言語である英語、特に一世紀以上に及んで研究が蓄積されてきた英国英語では、節音調の語用論的機能が実に複雑で多様であることが示されています。本研究は、このような節音調における語用論的機能までを視野に入れた類型論的一般化を試みます。